
校舎長は、小さな会社の社長である
前の記事では、校舎長の仕事は自分が現場で動き続けることではなく、意思決定に集中できる組織をつくることだと書きました。そしてその「本当の勝負」は、校舎長に就任してから始まるとも。
この記事では、その「組織を作るフェーズ」の中身を開きます。何を渡し、何を握り続けるのか。どの順序で手放すのか。そして、1 年で作りきる校舎長と、3 年経っても詰まる校舎長の分かれ目はどこにあるのか——現場のリアルで話します。
校舎長の仕事の本質は、自分がいなくても回る組織をつくること。
何を渡し、何を残すか
抽象的に言えば、線引きはシンプルです。「校舎長しかできないこと」と「校舎長以外でもできること」。後者は、原則すべて渡せる対象です。
校舎長が最後まで握っておくべきものは、校舎の長期戦略と、各施策の最終確認・最終判断です。予算の配分、人材の採否、地域連携戦略、広告施策——こうした重要な意思決定は、校舎長の仕事としてずっと残り続けます。
逆に言えば、それ以外は全部渡せます。なかでも、高頻度で時間を拘束するタイプの業務を渡せると、校舎長の時間が一気に空きます。分担した効果が大きいのは、こちら側です。
- 校舎の長期戦略
- 各施策の最終確認・最終判断
- 予算の配分
- 人材の採否
- 地域連携戦略
- 広告施策の決定
- 事務経理まわり
- 繰り返しの現場オペレーション
- 特訓後の 10 分面談
- 三者面談の実施
- 保護者対応・問い合わせ
- 講師のシフトとマネジメント
渡せる校舎長と、抱え込む校舎長
渡しやすい順に並べると、たとえばこうなります。
- 事務経理まわりの作業
- 繰り返し発生する現場オペレーション
- 特訓後のチェック(生徒さん 1 人ずつの 10 分面談)
- 3 ヶ月に 1 度の三者面談の資料作成と実施
事務経理を校舎長がずっと抱えている、ということは基本的にはありません。ただ、うまく任せきれない校舎長ほど、ここを手放せずに時間を削られていく傾向があります。
特訓後のチェックは、校舎の学習品質を支える中核の業務です。校舎長がここを握り続けてしまう校舎もあれば、教務メンバーや研修を重ねた講師に分担できている校舎もあります。三者面談の資料作成・実施も同じで、渡せている校舎と、ずっと校舎長が抱え続けている校舎に分かれます。
加えて、社内ではチャット系 AI の活用ナレッジを早い段階から蓄積してきており、2025 年ごろからは業務システムを内製で開発・運用する体制も整ってきました。システムの通りに進めれば完了する業務が増え、マネジメント上の確認や繰り返し必要になる細かい業務が、対応分野ごとに減ってきています。また、報告系の文面化のように手間のかかる部分も、AI を効果的に活用できている校舎ほど時間が削減できています。「渡す」だけではなく「業務そのものをなくす」動きも、同時に走っている状態です。
任せる相手——講師・教務メンバー・SA の 3 層
任せる先は、大きく 3 層に分かれます。大学生が講師業務を担当する「講師」、校舎運営全般を担う「教務メンバー」、そして事務経理まわりを中心に校舎を支える「SA(Secretary Assistant)」です。それぞれに任せられる領域の広さが違います。
講師の基本業務は、特訓(個別指導)を担当することと、生徒さんの質問に対応することです。育ってきた講師には、特訓後のチェック面談や、後輩講師の育成まで任せるケースもあります。講師に任せられる範囲はおおよそここまでですが、ここを本気で広げられるかどうかは、校舎の時間の量を大きく左右します。
たとえば、特訓は基本 1 時間です。これを仮に教務メンバーが担当するとなると、運営側の時間は一気に取られます。特訓後の 10 分面談も、1 日 30 件あれば合計 300 分。すべてを教務で回そうとした瞬間に、校舎の運営時間がそこに溶けていきます。さらに、講師が後輩講師の育成を担当できるようになり、1 人あたり 10〜15 時間の研修を担ってくれるとします。年間 15 名を育成したとすると、150〜225 時間——ほぼ 1 ヶ月の社員 1 名分の時間に相当します。「講師層」が育っていることの価値は、それくらい大きい。
教務メンバーは、校舎運営の広い領域を担当します。生徒さんとの個別面談、保護者からの問い合わせや三者面談の実施、講師のシフトとマネジメント、校舎の日々の運営判断。ここが日常業務です。
育ってくるにつれて、渡せる業務は運営の深い層に広がっていきます。特訓後のチェック面談を質高く実施する、生徒データを読んで次の打ち手の仮説を立てる、校舎の KPI の進捗を見ながら施策を組み替える——このあたりまで任せられるようになると、校舎長は戦略と意思決定の層に時間を使えます。
そして 3 層目が SA(Secretary Assistant)です。社内では「SA」と呼ばれているポジションで、校舎を事務面から支えます。事務経理まわりを担当することが多いですが、なかにはブログ制作や、書店への営業に足を運ぶようなマーケティング関連の業務まで担当している SA もいます。SA にどこまで業務を渡しきれるかも、校舎長が現場を離れて意思決定の層に時間を使えるかどうかの、大事な要素です。
だから、どこかの層を中心に渡す、という話ではありません。講師・教務・SA の 3 層それぞれに、どこまで業務を渡しきれるか。そのトータルが、校舎長の時間の使い方を決めます。
分かれ目は、結局「やるかどうか」
1 年で組織を作りきる校舎長と、3 年経っても詰まる校舎長。スキルの差というより、結局やるかどうかというシンプルな話だと感じています。
よく出てくるのは、マネジメント担当者が普遍的に陥る壁です。「手を動かしている=仕事をしている」という感覚から抜けられない。「自分がやったほうが早い」という言葉でずっと思考停止してしまう。これはミライに限らず、多くの会社でマネジメントが詰まるときに必ず出てくるパターンです。
加えて、ミライ固有の分かれ目も一つあります。この会社は、業務を楽にする新しい仕組みや施策を、次々に取り入れていきます。その変化に乗れるか、それとも今までのやり方に固執するかで、差が開いていきます。内製システムや AI 活用を素直に取り入れる校舎と、手元のやり方を守りたがる校舎では、時間の空き方がまったく変わってきます。

任せる、育てる、信じて待つ。変化を取り入れる。言葉にすると単純ですが、実際の現場では、校舎長一人ひとりの個性がここに滲みます。壁を越えていく過程そのものが、校舎長自身の成長でもあります。
会社として、ここを支える仕組み
組織を作るフェーズは、校舎長一人で抱え込むものではありません。会社としても、いくつかの仕組みで伴走しています。
- 月 1 回の校舎長会議(全校舎の校舎長が集まる、事前動画+議論型)
- 3 ヶ月に 1 回、担当 SV(スーパーバイザー=複数校舎を管掌するエリア責任者)との 1on1
- それ以外の日常的な相談・質問も、上長にいつでもできる窓口
- 年間計画の策定サポート(どういう 1 年にするかの指針を一緒に引く)
- 運営の方向性をまとめたナレッジベース、マニュアル
- 内製システムによる繰り返し業務の削減(マネジメントやアクションの確認業務が、対応分野ごとに軽くなる)
- AI 活用による報告系業務の効率化(活用度合いで校舎差が出る)
校舎長を「就任後の組織作りは個人の才能次第です」と放り出す設計にはなっていません。仕組みで担保できるところは仕組みで、人で伴走するところは SV や他の校舎長で、というレイヤーが用意されています。
正直に——それでも、まだ弱い部分
仕組みは整ってきています。それでも、この組織を作るフェーズで個人差が生まれてしまうのは、会社として正直に、まだ弱い部分です。
どれだけ仕組みを整えても、マネジメントは最後に「人間」が出てしまう。仕組みだけでは支えきれない領域が、必ず残ります。標準化をもう一段進めて、ボトムラインを底上げしていくこと——これは、会社としてこれからも取り組んでいく課題です。
それでも、ここを越えた先に見えるもの
現場オペレーションをメンバーに渡しきれた校舎長は、時間の使い方が変わります。手を動かす層から、意思決定の層へ。考える時間、仮説を立てる時間、打ち手を設計する時間が増えていきます。これが、前の記事で書いた「校舎長 = 小さな会社の社長」が実態として成立している状態です。
この段階まで組織を作りきり、校舎で突き抜けた結果を残せた校舎長には、サブSV(サブスーパーバイザー = 複数校舎を管掌するエリア責任者候補)への道が開きます。現状、校舎長は横一線です。この横一線から抜け出すような結果を残しているメンバーは、まだいません。つまり、ここは年次の長さに関係なく、組織を作る力と校舎で出した数字だけで評価が決まる領域です。

この「下剋上」の構造については、別の記事でさらに踏み込みます。
組織を作る、というのが校舎長の仕事
校舎長の仕事は、自分が現場で動き続けることではありません。自分がいなくても回る組織をつくり、校舎を次の段階に押し上げていくことです。
渡せる校舎長になるか、抱え込む校舎長になるか。ここが、3 年後の景色を決めます。自分で作った組織の上で、意思決定に集中しながら校舎を動かしていく——そういう仕事の仕方に興味がある方は、ぜひ一度話を聞きに来てください。



